夢か現か

何でもない日常の手記.そして遺言書.

I will surely love 9

貴女と同じ空気が吸いたくて七つ星の煙を燻らす.焼け付く感覚に酔いながら,色恋を知らぬ少女がいっぱしの女に成るまでの十年近くを想う.僕はその苦悩を身近で感じる事はできなかったが,それでもきっと似たような痛みを想起する.往年の物語を見聞きすれば,嗚呼,この人はきっと同類だと感ぜざるを得ない.きっと鈍感な貴方はそれが何なのか気付かず儘に大人に成った.

 

「十代は神聖な物だから私は君を食えないよ.穢したく無いんだ」

「10代ってそんなに綺麗な物かな?」

 

少なくとも僕は,10代を神聖な儘全うするよりも,汚れてしまった方が良いと思うんだ.前に流行った曲でもドブネズミみたいに美しくなりたい*1って言って居ただろ?多少汚れて居る方が魂の光は耀きを増すと思うんだ.それに,これは人間を辞めるお薬の様な物では無く,寧ろ人間らしさを取り戻す儀式だ.お互いが付けた傷が,お互いが汚した顔が,それくらいの泥臭さが,人間としての美しさだと僕は思うよ.

 

「10代と20代で何か変わったの?」

「二十代に成ってからは,あの頃の痛みを思い出せなく成った」

 

貴女はその苦悩を青き果実の美しさだと思うのだろう.苦いからこそ,若さだと.熟れた大衆の嘯く正しさを腐って居ると思ったのだろう.普通には慣れないと気付いた時に,私は青い儘熟す果実だと,初めから違う種だったのだと,きっと思ったのだろう.痛みすら忘れた体に青い儘残った傷をなぞり,感傷に浸る.

 

「痛みは無くても良くない?取り返しの付かない過ちや致命傷を負わなければ,

そんな物に頼らなくとも大丈夫な気がする」

「そんなにセックスしたい?」 

 

端々に溢れ出す思春を感じ取って居たのだろう.まあ,今更下心を隠すつもりも毛頭無い.僕もしたい.貴女はこれを不純な感情だと思う様な人では無いだろう.これは純情だ.それはきっと貴女も判って居る.その上で何度でも言いたい.貴女が本来なら嫌いな約束をした様に,僕は本来なら忌み嫌う責任を負うつもりで居る.貴女が弱き人であろう事は何となく察しが付いて居る.その弱さにすら惹かれたんだ.

 

「あの時.何で僕をフォローしたの?」

「同じ匂いがした.それまで恋愛感情とかは判らなかったけど,

私はこの人を好きになるなって」

 

人が偶然を運命だと感じる様な浪漫チックな展開と言う物は案外身近にある事らしく,蛮族の蔓延る荒野でたった一つの青い果実を拾い当てた.そんなセレンディピティの洗礼が今度こそ流離いの激動に終止符を打てば良いと願う.三度目の正直だ.今度こそは失敗しない......いや,失敗しても立て直せる.互いが方角西南9で繋がって居たと知った瞬間に僕はそんな希望的観測を抱かずには居られなかった.

 

「此れが最初で最後に成ると良いな」

「その為に頭を使ってやって行く」

 

僕は人の言う愛という物を増大した好意を体裁良く美化した程度の物としか思わない.彼らの言う愛してるは所詮,御都合主義のエゴイズムだ.それは時に相手を雁字搦めにし,苦しめる.相手の幸福の為なら手を引いても良い,己が身を傷つけても良い,そんな類の感情や決意では無い.だから僕は,(少なくとも僕の納得する定義の)愛を抱ける人間は中々居ないと思う.僕も例外では無いと思って居た.だけど,きっと,きっと,きっと......僕は本当の意味で貴女を愛して了うだろう*2

 

 

 

 

*1:リンダリンダ/THE BLUE HEARTS

*2:愛に気をつけてね